今回は中大杉並こと、中央大学杉並高等学校の大田美和先生(校長)と山田篤史先生(教頭)にお話を伺いました。
教員になったきっかけから、教員志望の学生に向けたメッセージもあるため、教員志望の学生必見の内容になっています。
おふたりの経歴について
ーまずは教員になられたきっかけなどを教えていただけますでしょうか。
大田:私は2019年度から校長を務めて、今年で4年目になります。中央大学文学部教授と校長を兼務しています。そういう意味では一般の高校の校長先生とは違うかもしれません。大学生の時に、英語科の教員免許を取得しましたが、実際には、高校ではなく大学の教員となりました。
ー中央大学杉並高校の先生方の特徴や、大田校長から見た良い点など教えてください。
大田:「教員室」(職員室)の校長席で先生方のチームワークの素晴らしさを、ただの情報共有だけでなく、生徒一人一人をどうやって伸ばすかを話し合っている姿を、日々目にしています。
生徒たちも頻繁に教員室に来て、「勉強でここがわからない」とか、「部活で悩んでいる」とか先生に話していて、生徒と教員の距離がとても近いです。とても活気のある学校です。ここで改めて「人を教えるというのはどういうことか、やりがいとは、チームワークとは」ということを学ばせてもらっています。
ー教員の仕事についてどうお考えでしょうか。
大田:中央大学には教育学部がありません。
文学部の中に教育学専攻と教職事務室があり、文学部の教員は教員養成に割とかかわりが深いです。私も教員養成に関わる中央大学の委員会に所属していたことがあります。
また、教育実習の指導を行い、中学校や高校へ送り出すということも私は経験していて、そのときに各学校を訪問して、学生の授業参観も行いました。私自身、中高の教育と教員に関心が全くなかったわけではなかったです。
実際に本校で授業を参観したり、様々な行事に参加したりして、そこで楽しそうに活動する生徒や優しく見守る先生の姿を見て、責任も伴いますが、本当にやりがいのある仕事だなとますます強く実感しています。
近年、教育現場がブラックであるということが世間で言われていて、教員志望者が減っています。それに対してどうするべきか考えていたところなので、このように取材に来ていただけるのは大変ありがたいことだと思っております。
また、本校の生徒は9割以上が中央大学に進学するため、校長の重要な役割として、学部選択において、生徒一人一人の適性や希望にミスマッチが無いようにしています。生徒も教員も日々の授業などで忙しいので、あまり大学のことを知りません。校長は高校と大学をつなぐ役目を担っています。
ー山田先生のご経歴も教えていただけますでしょうか?
山田:2004年に入職して18年務めて19年目になります。教職経験はこの学校のみです。
その前は大学と大学院の修士課程と博士課程で、ヨーロッパの歴史を専門に研究していました。
修士課程3年目の頃から研究者として大学に残って勤めるというのも難しいなと感じてまして、中高の教員免許を取得したのは修士課程に入ってからになります。
それまでは教員になるということはあまり考えてはいませんでした。ただ、やはり歴史の勉強をしてきましたので、「歴史に関われる仕事に就きたい、自分の勉強したことを活かせるような仕事に就きたい。」と思いはあったのですが、そうなると選択肢はあまり多くなくて、結果高校の先生になるということを決めました。
もともとは、「絶対に先生になりたい!」という強い思いで教職課程の授業を取り始めたのではなくて、つぶしが利くかなというのがきっかけです。
ただ、教育実習で高校に行って世界史を教える機会があり、生徒たちが活き活きと勉強していたり、行事や部活をやっている姿を見て、授業を受ける生徒のエネルギーや意欲を感じたので、高校で働いてみたいなというのは実習の時に強く感じました。
それ以降は教職に就くことを目指して当初は公立の教員を目指していて何度かチャレンジはしていたのですが、2004年に中央大学杉並高等学校で募集がありましたので、そこから働かせていただいているというところです。
当初は、教科指導・ボート部の顧問として指導を行っていましたが、昨年度から教頭となりました。
昨年度、インターハイ6位入賞の成績をおさめたボート部
大田:彼は沈滞していたボート部を立て直した「ボート部中興の祖」でございます。
山田:本校は、創立が1963年で、創立当初にボート部ができて活動をしていました。
その後、部員がいなくなって廃部になっていたのですが、私自身が高校生の時にボート部に所属していた経験がありまして、入職したときに本校のボート部のOBの方から「ボート部を復活させてみたらどうですか?」という声をいただいたので、生徒に働きかけてボート部を復活させたということです。
中央大学のボート部と連携し、支えていただいて今はインターハイに出場できるようになり、昨年度はインターハイの決勝に行って6位に入賞することができるようになりました。
ー入職して1年の短い期間で部活動を復活させるということで、様々なプレッシャーを感じながら1年を過ごしたのですか?
山田:はじめは野球部の顧問だったのですが、学校の部活とは別でボート部のOBの方が「やろう!やろう!」と声をかけてくれました。
ボートに乗るのは高校生以来でしたが一緒に市民大会に出たりしていて、「やっぱりボートは楽しい!」という思いと、年齢も場所も違うボートの経験者たちで話が深まって、「ボートの魅力」を再認識しました。
その魅力を生徒に伝えていきながら、部員を10人以上集めてボート部の活動が再開しましたが、卒業生の中には中央大学の職員になった人もいるので、今では同じ組織で働く同僚みたいな存在にもなりましたね。(笑)
大田:今はコロナで応援に行くことはできないのですが、見ていてすごく面白くて生徒に成長の場を与えるスポーツだなと思いますね。
山田:ボートは他の団体スポーツと違って、近くで監督や指導者が指示をすることができなくて、自分たちで船を進めて、自分たちでレースして帰ってくるという形式なのです。
だから練習メニューは出しますが、それを自分たちでどういう質と量でやるかは彼ら次第ですし、同じくらいの目的意識を持っていないとバラバラになって満足のいく形にならないですね。自立を促し、レースで発揮してもらうことができれば良いと思っています。
学校初の女性校長の大田校長が、校長としてやりたいこととは
大田:校長としてやりたいこと、皆さんにやってほしいことがいくつかあります。
やっぱり今はダイバーシティの時代というのでしょうか、昔のように年功序列で管理職を決めて、管理職に50代~60代の教員しかいないというのではなく、力があれば若手の教員を管理職に入れていきたいと思っています。
中央大学の付属校は4つありますが、その中で異動が無いので、退職しない限りずっと同じ学校に勤めることになります。
卒業生が遊びに来た時や、教育実習の時には知っている先生がいるという良い点もあるのですが、管理職目線で見ると、若い教員を入れたいと思っても財政的に退職者が出たときなどでしか採用ができないこともあって、平均年齢は上がっていくことになるんです。
なので、管理職になる人たちは60代前後で、それを加味すると校長も50代みたいなことがあったので、それを変えていきたいと考えています。若手の教員もいればベテランの教員もいるので、管理職の中にも世代のギャップは生まれないようにしたいですね。(山田教頭は40代半ばです)
また、学校というのも社会の変化で変わってきていますが、ずっと同じ職場にいると、変化に気付くのが難しいこともあります。
若い方は新しい社会の価値観をお持ちでその上で本校に入ってきてくれるんですけれども、ベテランの教員陣は自分達が若かった時の先輩教員をロールモデルにしてしまうこともあるので、若手の採用や登用を積極的にしていきたいな、と考えています。
大田:また、私は本校で初の女性校長です。大学から校長職の打診があったときに21世紀が20年も過ぎているのに、女性校長が着任したことがないということに驚きました。
大学でも男女共同参画を一生懸命進めています。まずは私が先陣となって、そのあとは老若男女関係なく、全員が力を発揮できる働きやすい環境になってほしいです。また、私が過去に大学で高大連携の委員をやっていたときも、高校から大学に会議でいらっしゃる主任の方々が、ほとんど男性教員ばかりでしたのでこれにはすごく驚きました。
昨年から複数の女性教員が主任になりました。もちろん、各個人のご家庭の事情等でうまく行かないこともありますが、やはり、管理職に女性が著しく少ないというのを日々見ているのは未来の社会を作っていく生徒にとって良くないことであるのかなと考えています。
私が管理職として願っているのは、自分は管理職に向いてないからとか、管理職にはとてもなれない、と決めないでほしいということです。
教員は皆、教室では全力で教えていらっしゃると思いますが、学校運営していくために皆さんに学校のことを自分事として考えてもらいたくて、そのためには女性の管理職がいなかったから自分には回ってこない、自分には関係ないみたいな感じになるのは管理職としては良いことではないと考えています。
ー管理職に若手の方を入れていくことなどで軋轢等は無かったのですか?
大田:まず、教員の方が教員を目指した第一の動機は「生徒の成長に関わりたい」というのが強いと思いますので、管理職をやりたいという人が多くないのかもしれないですね。
先生方には、自由にご自分の持てる力を発揮していただいた方が良いと思っています。そのためにもダイバーシティが必要なのです。
また、中央大学ではダイバーシティ宣言を発表していて、その一環でダイバーシティセンターを作りました。専門的な知見と経験を持っているコーディネータが、本校にも研修に来てくれています。
近年ではトランスジェンダーの生徒と保護者のお問い合わせがあり、すぐに対応が必要ということになりました。
それまではそのような問題について関心の薄い教員もいたのですが、そのような事例があって、中央大学から専門家が来て、全国の学校の取り組みなどを紹介いただいて、小学校・中学校では取り組みが進んでいるけれども、「高等学校ではあまり進んでいないのが現状、次は高校が積極的に取り組みを行わなくてはいけません。」というお話を聞き、先生方も非常に理性的に受け止めてくださいました。
ー初の女性校長という部分で何か感じたことはありますか?
大田:別に大したことはなかったです。(笑)
私が来たときは先生たちにどう見られているのかと自分自身が身構えていて、度胸があるところを見せようと思って、着任して初めて参加した入学式では厳かな式典の中で校長式辞で歌を歌いました。(笑)
前の日にとても悩んだのですが、ここの生徒たちは普通に勉強していれば中央大学に進学できるということで、だからこそ「いろんなことに挑戦してほしい」と伝えたいと思って「サウンドオブミュージック」の「クライム・エブリ・マウンテン」の一部を歌いました。
まぁ普通に話しても良かったのですが、先生方に対しても「私はこういう場でも歌を歌う度胸があるんだぞ!」というのを見せたかったのです。でも、すぐにわかったのですが、別に構える必要は全くありませんでした。
何か言われたら「何も変わりませんよ。校長が女子トイレに入るだけです。」と答えようと思ったのですが、何もありませんでした。
でも実はそれがアンコンシャス・バイアス(※無意識の思い込みや偏見)だったのです。
大学もそうだったのですが、「女性の校長が今までいなかったよね。」ということについて誰も疑問に思わないで過ごしている。だからその変化が起こらない。やっぱりそういうことだったんだとわかりました。だから何も不自由してないですよ。
教員志望の学生に対するメッセージ
ー今後、教員を目指す方に対してメッセージをお願いします。
大田:学校の先生になるからといって、学校の先生になるための活動だけに狭めないでほしいですね。
山田:私はこれまでに30か国くらい行ったことがあり、コロナ禍前は毎年、旅行に行っていました。(笑)
大田:本校の先生方の強みはそういった興味に対して若いときに自分で動いたり、今も動いていることなんです。副校長(谷内田先生)は合気道を指導していますが、街の道場でも武道を教えていらっしゃいます。
山田:先生方は、皆さん個性が豊かで何か専門的な経験をしていることが多いですかね。
大田:それが人間的な魅力につながっていて、生徒達も見抜きますよね。そのような魅力は学校の先生であればいくらでも持っていていいと思うんですよ。
山田:生徒は、勉強の悩み・家庭の悩みや友人関係の悩みなど様々な悩みを持っています。
最初のSOSが教員に向けられたときの答えが通り一遍の教科書的な答えを返す先生と、自分の体験から、それが正しいかはわからないけど、「自分はこう思う。」というのを伝える先生かどうか、生徒はよく見ていると思います。
そこに信頼関係が生まれて、生徒が先生を頼ったり、先生もやりがいを感じたりすることにつながるかなと思いますね。
大田:先生方の経験や特技というのは様々で、その点のダイバーシティ(多様性)は本校の自慢できることですね。大学院を修了した方もいれば学部卒の方もいらっしゃいますし、通信制の高校での就業経験もある方もいらっしゃって、そういう外での経験というのが、部活や生徒への対応で生きているような気がします。
人間としての幅広さや面白さが、生徒への伝える力になる
ー教職課程をとっている学生は他の学生と比べると忙しくて直接、教職につながらない経験をしていくのは難しいと思いますが、いかがでしょうか。
山田:普段していること以外に何かをすることは難しく、大変だというのは非常にわかります。
ですが、自分の好きなことは時間に追われていてもやりたければやってみてください。積極的に自分自身でネットワークを作って、休みの日でも外に出てやってみるのも大事です。要は、自分がやりたいと思っていることは積極的にやるべきだと思います。
今、私は教員採用にも携わっていて、いい先生というのは授業がうまくできるといったことだけではなくて、人間としての幅広さとか面白さとか、そういうところを生徒に伝えられる人なんじゃないかなと思っています。
私が採用試験の面接に参加しているときに、面白いことを話してくれたり、予想もしなかったことを話してくれるような方には、私は魅力を感じますね。
大田:私は大学で教職課程の授業に関わることもあるのですが、「教職課程を1年で登録したけど大変なのでやめます。」という学生が残念ながらとても多いという現状はあります。
今の学生たちと比べることは難しいかもしれないですけれども、私は学部時代は混声合唱団に入っていて、コンサートがあると毎日、授業の空き時間や授業後に練習していました。でもその経験が人生で一番役に立った気がします。
高校だと、特に本校は課外活動が多くて、学校が課外活動を用意してくれますが、大学に入ると自主的に動いて、活動を探さないといけません。その点は、課外活動を熱心にやりたい方は、心がけていかなければいけないことだと思いますね。
ー受験以外の活動ができるという点においてHPの校長あいさつの「高校4年生」という部分について、逆に附属校の方が「高校4年生」を生みやすいのではないかと思いましたがいかがですか。
山田:附属校の生徒には、2パターンあると思います。附属だからこそ3年間で自分の興味があることに次々と挑戦していく生徒もいますし、附属だからということで、自分が本当にやりたい分野でなくても現実的に行ける興味のあること以外の学部や学科を選択してしまう生徒もいるでしょう。
大田:だからこそ学生時代に何をやるのかというのは大事で、そのようなヒントは本校の先生たちが与えてくださっていますよ。
昨年はNPOで活動されている方にオンラインで講演をしていただき、生徒たちにこれから主体的に生きていくヒントをたくさんいただきました。ただ、やはり与えられることに慣れていると大学に入学したとき、「高校4年生」になってしまいますよね。
山田:自分で学部を選択する生徒もいれば、親と相談して保護者の意向を優先して学部を選択する生徒も一定程度います。
そのような生徒の中でも大学に入ってから変わる子も中にはいますし、周りの大人が支えてくれているということをしっかりわかっている生徒もいますね。
求める人材とは?教員志望の大学生へのメッセージ
ー最後に、教員志望の学生に向けて、貴校が求める人材について教えてください。
山田:率直に言うと、最近の若い方は目標に対して何が必要かということを最短ルートで考えて、資格を取得したり、実学的なことに力を入れる方が多いと思います。それ自体は非常にいいことです。
しかし、「遊び」の部分がいっぱいあった方がその人の個性や魅力につながり、教員同士でも刺激し合えることだと思いますし、生徒にとっても憧れられるような魅力につながると思います。
勉強以外のことでも何でも良いので、自分がやりたいこと、エネルギーや時間を費やしてもやりたいことを一生懸命やって「私はこういう人間です!」「私はこういうことができます!」ってアピールできる人に私は採用の時に魅力を感じますね。
今から特別なことを始めるのではなく、今やっている大事なことを人よりもトコトンやって自分の人間性を磨くということをやってほしいです。
また、自分が苦手とする人や物事から逃げないで、そこでどれくらいしっかりできるか、苦手な人と話せるかという経験は是非してほしいと思います。
大人同士でも必要かもしれませんが、自分が苦手とする生徒から逃げないで、ちゃんと付き合って面倒を見ることができる資質が教員には必要だと思います。
私は、教員の仕事にやりがいを感じていますし、在学中手のかかった生徒が、卒業後成長して活躍する姿を見るととても嬉しく感じます。生徒の成長を思う気持ちがあるからこそ、どのような生徒でも「この子に何かしてあげたい」「うまくいってほしい」という感情をもてるのだと思います。そのような気持ちを持った人は、魅力的です。
大田:教員志望の方は日々の勉強や採用試験のための勉強で精いっぱいで、教員志望の仲間を作ることも大事ですが、教員志望ではない仲間を大学時代に作ってほしいです。
それは他の分野に興味が広がり、視野が広がるという事もありますし、また就職先の学校で悩みがあったときに、相談できないところまで追い込まれる前に、別の業界で働いている、話ができる友人を、大学時代に作っておいてほしいです。
社会人になるとなかなか本音で話せる人というのは作りづらいので。どうしても今の若い方たちはコスパを考えてしまうのですが、無駄に見えることの方が、絶対に後で役に立つんですよ。