教員というと、「学校の中で子どもたちを育てる職業」というイメージを持たれがちですが、時に、家庭内の問題で困っている子どものSOSに応じなければなりません。
今回は、保護者からの虐待に対して教員ができることについて紹介していきます。
児童虐待は4種類
虐待は4種類あります。
多くの人が真っ先に思いつくであろう「殴る」「蹴る」といった暴力によるものは「①身体的虐待」、わいせつな行為をしたりさせたりする「②性的虐待」、言葉の暴力などによる「③心理的虐待」、育児放棄などの「④ネグレクト」です。
こうした虐待は年々増加しており、厚生労働省の公表(「児童相談所での児童虐待相談対応件数」)によると、令和3年度の児童相談所での児童虐待に関する相談件数は20万7千件超という結果でした。
参照:“https://www.mhlw.go.jp/content/001040752.pdf”.令和3年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数.R3年9月9日.厚生労働省
虐待が及ぼす影響は?
虐待行為は、心と身体が発達段階の子どもの心身に深い傷を与えることになります。それぞれの種類の虐待が、子どもたちにどのような影響を与えるかというと、
- 身体的虐待によって・・・脳内出血や火傷、傷跡、これらによる心的ストレス
- 性的虐待によって・・・対人障害や自尊心の欠落
- 心的虐待によって・・・自己肯定感の低下、情緒不安定
- ネグレクトによって・・・栄養不足、感覚刺激の不足、発育障害
などがあります。
虐待の影響が怖いのは、虐待を受けている時だけでなく「心的トラウマ」が残り続けることによって、その後の生涯に渡って影響が及び続けるという点です。虐待を受けていた子どもは大人になっても心の傷が癒えず、自傷行為や自死につながってしまうケースもあります。近年、虐待が子どもの成長に大きな影響を与えることが分かってきて、行政なども支援を打ち出していますが、なかなか助けることができる子を助けられないのが現状です。
法律が学校に求めること
児童虐待は、家庭での問題ではありますが、学校教育と関係がないとは言えません。教員は、家庭内の虐待行為に介入しなくてはならない時があります。これは「児童虐待の防止等に関する法律(通称:児童虐待防止法)」によって努力義務が課されているからです。
この法律では、学校および学校の教職員に対し、以下のように定めています。
【児童虐待の早期発見等】
- 児童虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し、児童虐待の早期発見に努めなければならない(第5条第1項)
- 児童虐待の予防その他の児童虐待の防止並びに児童虐待を受けた児童の保護及び自立の支援に関する国及び地方公共団体の施策に協力するよう努めなければならないこと(同条第2項)
- 児童及び保護者に対して、児童虐待の防止のための教育又は啓発に努めなければならないこと(同条第3項)などの責務が課されていること。
- 児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならないこと(同法第6条第1項)
【児童虐待に係る通告】
- 児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならないこと(同法第6条第1項)
参照:”https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/04121502/051.htm”.「学校等における児童虐待防止に向けた取組の推進について(通知).18初児生第11号.平成18年6月5日.文部科学省
児童虐待防止法は、虐待によって児童の成長や人格形成に悪影響を及ぼすことを防ぐため、2000年11月に施行されました。児童と言っても18歳未満までがこの法律の対象となります。
この法律は特に、いじめや不登校対策と同じように「早期発見・早期対応」という部分にポイントが置かれています。早期発見の部分で、「虐待」または「虐待が疑われる行為」があった際に、市町村や福祉事務所、児童相談所に通告する努力義務を課されているのが
- 学校・児童福祉施設・病院などの団体
- 学校・児童福祉施設の教職員
- 医師・保健師・弁護士
上記のような人たちの他に地域の人々でも可能です。重要になるのが通告に対して
- 保護者の同意を取る必要はない
- 証拠となるようなものが明確でなくてもよい
- 虐待が疑われる場合でもよい
上記の3つのポイントは覚えておきましょう。小中学生にとって、学校は家庭の次に長く過ごす場所です。それだけ家庭の影響が出やすい場所とも言えます。
虐待を発見するポイント
では、虐待を発見するために教員はどのような目で子どもを観察すればよいのでしょうか。そのポイントをいくつか紹介していきます。
【身体的な特徴】
- 体に不自然なあざや怪我、火傷の跡などがある。
- 季節に合わない服装や長期にわたる包帯などのけがを隠すようなそぶりがある
【行動的な特徴】
- 無表情や過剰な怯え、落ち着きのない行動がみられる
- 衝動的な自傷行為や他人への攻撃性がみられる
- 毎日同じような服装、異臭
【学校生活上の特徴】
- 着替えることを嫌がったり体育を頻繁に見学したりする
- 学校からの受診依頼に対して受診しない
- 性的に対する異常な関心、知識をもっている
全てではないですが、虐待を早期発見するためのポイントを紹介しました。ここに挙げたポイントは虐待案件だけでなく、生徒指導上の問題(問題行動やいじめ・不登校など)の未然防止にも役立つことです。したがって児童生徒を観察するときには「虐待があるかも」という目線で見ていると大変なので、生徒指導の一環として見て、問題があれば学年で情報の共有をしておきます。そして、子どもの聞き取りや周囲の話から「虐待が疑われる段階」に達したところで関係機関に通告することが大切です。
対応方法は外部機関との連携が不可欠
児童虐待が判明した場合、学校としてできることはあまりありません。なぜなら、児童の一時保護等を決定することができるのは都道府県知事や児童相談所であり、学校が判断をすることはできないからです。したがって、主に後方支援をしていくことになります。児童相談所から児童の様子や資料の提出を求められた場合には、応じる必要がありますし、通告された児童生徒がどのような生活をしているのか経過観察を報告することもあります。
一般的に、児童虐待の通告があるとまずは、該当児童との面会、そして安全を確保するための対策が取られます。あまりに事態がひどい場合には、この時点で緊急的に一時保護をするケースもあります。その後、保護者への質問や事情聴取などの対策を取ります。保護者が出頭の要請に応じない場合には、都道府県知事の許可のもと、児童福祉従事者に立ち入り調査、捜索などをさせることもできます。
このように学校ではなく、行政の立場から一時保護などの支援が進められていくことになります。学校の先生には虐待に対して強い権限はないので、保護者に対して不用意なことを言わないように注意しましょう。
深入りしすぎず発見と報告に注力する
児童相談所に報告されている児童虐待に関する数は年々増えていますが、これは見方を変えると、それだけ多くの人が関心をもち通告しているとも言い換えることができます。家庭の問題も大きいので教員としては深入りしにくいと感じるかもしれませんが、生徒指導の視点で見て、明らかに様子がおかしい、あざのようなものがある状況であれば子どもに確認するようにしましょう。そして、原因がはっきりとしていない、家のことになると子どもが黙ってしまうなど家庭で何らかの困り感をもっている様子があれば学年の職員や管理職への報告が大切です。するとさまざま情報が集まってくるので通告につながります。まずは「発見」と「報告」この2つを大切にしましょう。