近年、教育業界では「GIGAスクール構想の実現」「一人一台のICT端末整備」など、デジタル技術の導入が相次いでいます。その中で「教育のDX化」「校務のDX化」といった多くの新しい言葉も生まれ、広く使われるようになってきました。しかし、DX化という言葉の意味を本当に理解している教員は少ないのが現実です。
DXはデジタル・トランスフォーメーションの略であり、教育DXとは、「学校がデジタル技術を利用してカリキュラムの学習内容を革新すること。」「学校が教職員の業務や組織、プロセスを革新し、時代に対応した教育を確立すること」の2本立てになっています。ポイントは「デジタル教育を導入する」ことが教育DXではなく、導入されたデジタル機器を活用して革新することが求められていることです。
教育をデジタル技術を用いてよりよくする
最近の教育現場では、各種のお便りがデジタル化されて配信されたり、授業でも電子黒板、デジタル教科書を用いた指導をすることが当たり前になってきました。しかし、これはアナログをデジタルの置き換えただけなので「活用」とは言えるものの「革新」まではいきません。
アフターGIGAスクールで見えてきた課題
ICT機器が次々に導入された「GIGAスクール構想」から3年が経過し、今はアフターGIGAスクール時代になりました。
教育DXを推進することで本来は教職員の負担を軽減し、子どもたちにとっては分かりやすい授業をすることができるようになるはずでしたが、実際には教員の負担の増大、端末管理に関わる費用やトラブル対応、子どもたちの道徳観の違いなどのさまざまな問題があり、ICT機器の導入が本当に効果があったのか疑問視する声が多いのも事実です。
一方で、GIGAスクールで導入されたICT機器をフルに活用し業務の軽減、働き方改革に繋げている学校が多数あるのも事実です。なぜこのようなことになってきてしまったのでしょうか。その要因は、「DX」の意味をしっかりと理解して実行したのか、ただのデジタル教育の導入で止まってしまったのかの違いにあります。
デジタルに任せることは任せる
DXが上手く行われている自治体の特徴はデジタルの強みを生かしていることです。授業でもなんでも端末を用いて行えばよいというわけではありません。授業には必ず「めあて」「目標」があります。この目標に向かって勉強をしていく際に、従来の方法の方が効果があると判断できれば「デジタル化」をする必要はないのです。例えば、漢字の練習をするとしたときにも「書いて覚えるめあて」であれば、紙と鉛筆を用いて正しい筆順で書くほうが「めあて」の達成になります。しかし、漢字を覚える練習であれば「デジタルドリル」を利用するほうがよいのではないでしょうか。何度も練習をすることができ、AIが搭載されているドリルであれば、児童生徒の間違った問題を中心にAIが判断して出題してきます。教員側も、子どもの到達具合が即座に分かるので、得点を見てサポートすることも可能です。テストの採点でも自動採点システムが採点できる部分については、システムに任せてしまい、教員でなければ判断できない問題のみ採点をする方式にすれば、教員の負担を大きく軽減することができます。このようにDXを取り入れると「めあて」を達成しやすくなる部分から導入していくことが大切です。
何でもかんでもデジタル化はしない
先ほど述べた漢字練習のように、目的に応じたDX化が重要なのですが、上手くいかないところは「なんでもデジタル化」したがる傾向にありました。児童生徒が保有している端末は「学習道具」なので、つねに使わないといけないものではなく、最も適切なところで使う必要があります。理科の実験でもデジタル教科書を見れば、花の成長過程や実験の結果などは、すぐに分かるようになりました。しかし、仮説を立てて、検証し、まとめる。そしていくつもの結果を比較しながら、規則性や法則性を見つけていくことはデジタル教科書を見ただけでは分からず、体験的な活動が必要になります。
しかしながら、比較をする際に1つ1つの記録を書いて、みんなで見せあうのは大変じゃないでしょうか。そんなときはデジタルの出番です。結果をアンケートフォームのようなものに記入して送信する。そうすることによりクラス全員のデータが手元の端末で簡単に集計され、見ることができます。これは端末を持っているからできる学習方法です。このように、「デジタルを使うと楽になる・分かりやすくなる」という視点で端末の使い方を考えるのがDXです。
デジタルで代替できるか&効率が上がるかの2軸で仕分け
経験の浅い教員にとって「デジタル」と「アナログ」どちらを使うべきなのか判断が付きにくいこともあります。その場合は、「デジタルで代替できるか」「効率が上がるか」この2つの軸で判断します。
まず、デジタルで代替できるかどうかは、導入されているパソコンや自治体の管理コンソール設定に依存する部分が大きいです。したがって、DXを進める前に「代替できる・できない」というのは重要な確認事項です。
次に「効率が上がるかどうか」です。ただし、これには注意が必要で、主語を「児童生徒」と「教員」という2つで考える必要があります。児童生徒の効率が上がっても、教員の効率が悪くないのでは働き方改革に逆行します。逆に「児童生徒」「教員」どちらの効率も上がれば即実行したほうが良いです。先生の効率が上がるケースも児童生徒への効果が変わらなければ実行したほうが良いものになります。
このように「代替できるか」「効率が良いか」この2軸で授業準備や校務支援についてDX化していくのがおすすめです。
参考文献:文部科学省 教育DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進について
https://www.mext.go.jp/a_menu/other/data_00008.htm,(参照2023-08-12)
参考文献:教育DXの推進に関する調査研究https://www.mext.go.jp/a_menu/other/data_00009.htm,(参照2023-08-12)
DXを実現するためにはミックスすることを考える
教育DXは、従来の方法とデジタルを合わせて効果を上げる方法です。決して「デジタル化ありき」でないことを理解しておきましょう。すでにDXを推進している自治体では「デジタル化の価値」という部分の検証に入っています。
例えば、授業において端末を利用していたとしても「本当に端末を使わないといけない授業であったのか」「従来の方法の方がめあての達成がしやすかったのではないか」という視点での検証です。学校の先生を支援する校務支援システムについても「年度移行作業」「機器のメンテナンス」という点が問題視されています。そこで、自治体のICT機器納入を行っている業者や校務支援システムを提供している業者に支援員の派遣を依頼しているところもあります。デジタルよりもアナログの方が「効率的」であるものについては見直しが進んでいます。
端末は「道具」であるという意識を持とう
GIGAスクールが推進されるに伴って、現場では操作に関する不安やセキュリティーの問題が懸念され、推進をなかなかできない自治体が多くありました。ここで1つ目の差が生まれたのは事実です。でも、「使えるところから使う」「ちょっとやってみる」そんなことを繰り返した自治体は確実にDX化が進んでいます。そして、教員の労働時間削減、児童生徒の学習に対する意欲の高まりがみられているのも事実です。
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