5月後半にもなると教員の忙しさも少し落ちつき、周囲の状況を見ることができるようになります。教室環境を見直すにはぴったりの時期です。
新年度の初めに教室掲示したものは、教員が主体となって作成したものが多いのではないでしょうか。子どもたちの活動が始まった5月は子どもが生き生きと活動する教室デザインに切り替えるチャンスでもあります。5月から6月には、保護者への公開授業を予定している学校も多いと思いますので、子どもたちの活躍が分かる教室デザインにしてみませんか?
ライター
emikyon
・元公立学校教員
・教育委員会にて勤務
・eduloライター歴2年
「子どもの声と確認」を反映したデザイン
教室デザインのポイント1つ目は、教室内に「子どもの声」を反映することです。子どもが書いたもの、子どもから子どもたちへの報告やメッセージ、依頼などがあると自治的に運営されていく学級になります。具体的には
・学級の係からクラスの子へのお願い
・係や委員会が今何をしているのかという報告
このようなものがリアルタイムに掲示されている、または書かれている雰囲気です。
そして、他の子どもが「確認」できることも大切です。
・毎週月曜日にチェックする場所
・毎日宿題を提出する場所
というように係の活動に対して、クラスの子どもが見たり書いたりしていることが分かるデザインになっていると、子どもたちが自分たちの課題や問題に気付き、どのようにすればよいか自分たちで考えて行動しているが目に見えて分かります。
教室内に「学びの足跡」が残ったデザイン
2つ目は多くの教員が行っている「学びの足跡」を教室内に残しておくことです。今、どんな勉強をしているのか、どんな作品を作ったのか、こうしたものを教室内に掲示しておくと子ども同士だけでなく学校に来た保護者も日々の学習成果が分かります。ただし、学びの足跡はいつまでも同じ状態ではいけません。定期的な更新が必要になります。例えば、4月によく作る「自己紹介カード」、これが6月になっても同じ状況では意味がありません。学びの足跡は定期的に更新をしていきましょう。
1つ配慮すべきこととして「更新できない児童生徒への配慮」これも忘れないようにしましょう。もし、不登校の児童生徒がいる場合には、番号順に一律に並べてしまうと「不登校の子だけ変わらない状況」が生まれてしまいます。自分のクラスは不登校が多いなと思ったら「一律並び」は止め、ランダムにするなどの配慮も大切です。
だれが見ても「一目でわかる」デザイン
3つ目は、だれが見ても「一目で分かる」デザインです。最近は「ユニバーサルデザイン」や「合理的配慮」が教員にも浸透しています。あまり派手な色遣いをすると逆効果になってしまいますが、シンプルに分かりやすくするという考え方はとても大切です。特に小学校の低学年では、分かりやすい・分かりにくいということは子どもの行動に大きな影響を与えます。
「一目でわかるデザイン」を実現するために意識したいことは次の3点です。
1. ものを置く場所にはラベリングと可能であれば図やイラストを併用
2. 置き場所は固定して、仲間同士に集約する
3. 整理整頓をする係または役割を決める
多くの教室で教員が工夫して教室のデザインをしており、特に1と2に関しては教室を見ていてもできていることが多いのです。一方で残念なことが多いのが3です。せっかく置き場所が作られていても、置いてあるものが示されているものではなかったり、すでになくなってしまってゴミの状態になっているもの(セロテープの残骸や使いにくそうな古紙など)が置かれていたりするケースがあります。
最初のうちは先生も気を使って、整理整頓を心がけていたのかもしれませんが、時間の経過とともにだんだん雑になってしまっていく光景をよく見かけます。「割れ窓理論」というものがありますが、「ちょっと乱れていても平気」という状況を作ってしまうと一気に乱れていくのが教室です。一度始めたのであれば継続するための方策を考え、1年間実行し続けることが大切です。
子どもの「手の届く高さ」のデザイン
次に意識したいことが「手の届く高さ」のデザインです。意外と教員が忘れていることなので、すでに教室環境を整えている人はクラス内を見直してください。高さだけでなく奥行きも意外と大切です。
教室環境を作っていくとき、安全性への配慮は意識が高い教員が多く、はさみのような刃物は鍵のかかるところに保管したり、高いところに重いものを置いたりすることはしないと思います。
一方で、子どもにとって「使いやすい」「取りやすい」という視点が抜けていないでしょうか。特に高さです。まず、「高さ」は受け持つ学年によって子どもの身長が違うので変えなければいけないことは教員でなくても気づくと思います。でも、子どもの動作まで配慮しているでしょうか。
例えば、水筒置き場です。子どもが取りやすいように台の上に載せることが多いのですが、取り出すためには上に持ち上げる動作をします。持ち上げるときに自分の顔よりも高い位置まで上げるとどうしても取り出しにくくなります。また、最近は背の高い水筒を持っている子どもが多いので、上から見下ろすような視線じゃないと水筒を見つけることができません。タブレット端末や掃除道具など、床には置けない、でも教室背面ロッカーの中に入れにくいものなどを設置する際には高さを意識しましょう。併せて「奥行き」も意識できると取り出しやすくなります。取り出しに時間がかかると行列ができて、そこでトラブルが起きるきっかけにもなります。子どもに取りに行かせることを前提に考える場合、「取りやすさ」「動きやすさ」を意識した配置にすることが大切です。
1つの場所に1つの目的で「迷わない」デザイン
教室に保管場所が少ない場合、どうしても1か所にたくさんのものを置きがちになります。これも混乱を招く要因になります。教室でよく見かけるロッカーの中に「文房具」という棚がある。こうなるとどこにあるのかというのは子どもは解りますが、取り出すのに時間がかかるだけでなく、戻すときにも迷う要因になります。できるだけ1つの場所には1つのもの、または、箱を分けておくなどの配慮をしましょう。動線を考えた「置き場所の分割」も有効です。授業でいったん回収した教材や制作物を一旦、仮置きすることはよくありますが、1つの場所に集めてしまうと取りに行くときにも1か所に集中します。待ち時間は、子どもにとって退屈な時間であり、待ち時間が多いほど騒がしくなります。さらにそれを教員が注意して余計に時間がかかるという悪循環にもはまりかねないので、できるだけ動線を意識したものの配置もできるようになるとよいです。
子どもができている実感を伴わせよう
教室掲示が上手なクラスは、置き方がきれいなだけでなく、分かりやすく、さらに子どもの動きも考えて配置されています。いつも困ったら自分でできるという安心感、達成感を持たせることはとても大切です。教員にとっても準備の段階では時間がかかりますが、子どもが自分たちで動くことができるようになれば、一気に負担が軽減します。子どもの目線に立った教室環境作りをし、子どもたちが自分でできるという実感を持たせることができる環境を作りましょう。